東近江市の五個荘地区は、古くから豊かな農村地帯として、農耕を基盤とした生活文化が育まれてきました。また、当地域は近世後期~近代にかけて、江戸や京都、大阪をはじめ全国各地に進出して活躍した、近江商人発祥の地でもあります。今日見られる民俗文化の中には、かつての近江商人たちが少なからず影響を与えたと思われるものが数多く残されています。司馬遼太郎さんの「街道をゆく」24近江散歩の「近江門徒」の中で、「日本語にはさせて頂きます、という語法がある。この語法は上方から出た。近ごろは東京弁にも入り込んで、標準語を混乱(?)させている。「それでは帰らせていただきます。」「明日は取りに来させていただきます。」「元気に暮らさせていただきます。」この語法は浄土真宗の(真宗・門徒・本願寺)の教養上から出たもので、・・・・(中略)・・・・絶対他力を想定してしか成立しない。それによって「お陰」が成立し、「お陰」という観念があればこそ「地下鉄で虎ノ門までゆかせていただきました。などと言う。相手の銭で乗ったわけでない。自分の足と銭で地下鉄に乗ったのに「頂きました」などというのは、他力信仰が存在するためである。もっとも今は語法だけになっている。かつての近江商人の面白さは、彼らが同時に近江門徒であったことである。京、大阪や江戸へ出て商いをする場合も得意先の玄関でつい門徒用語が出た。・・・この語法は、とくに昭和になってから東京に浸透したように思える。」と書かれています。「お陰さまで」「させて頂きます」この語法にある精神は当地の誇れる大きな精神文化だと思います。
五個荘の各地にはこのように先祖から受け継がれ、育まれてきた誇れる文化や伝統、建造物などの遺産が多く残されています。五個荘地区まちづくり協議会が自治会ごとに地区の誇る伝統文化・遺産を一つ選んでいただき「わがまち一番」として各地に看板が立てられました。「わがまち一番」の冊子とともにこれから五個荘地区の貴重な案内板としても活躍していきます。